地上高3,776mmの大太鼓が鳴り響く 「富士山太鼓まつり」の魅力に迫る

2018年「富士山太鼓まつり」開催レポート

全国の和太鼓奏者が御殿場へ集結し、日本一の山・富士山の麓で技を競い合う和太鼓の祭典「富士山太鼓まつり」。2018年に開催されたレポートと、このイベントが誕生したストーリーをお届けします。

日本一の山の麓で和太鼓演奏の日本一を競う

「せいやっ!」「いっさあ!」
2018年7月29日(日)、和太鼓奏者の威勢の良い掛け声とともに、地鳴りのような重低音が御殿場市民会館に鳴り続けました。「日本一の富士山で日本一の太鼓の祭典を」を合言葉に、1986年より御殿場で開催されている「富士山太鼓まつり」。ちょうどこのイベントが開催された週末に台風が接近していたため、会場が富士山樹空の森内の富士山交流センターから御殿場市民会館へと急きょ変更になりましたが、予定されていた和太鼓の演奏はすべて無事に行われました。

台座を含めた高さが3,376mmある富士山大太鼓に向かい合う、第28回大太鼓富士山一人打ちコンテストの優勝者・山内勇人さん(御殿場市)

富士山太鼓まつりの大きな目玉は、富士山の標高の1000分の1にあたる地上高3,376mmの大太鼓をひとりの和太鼓奏者が打ち鳴らす「大太鼓富士山一人打ちコンテスト」の本選と、全国の高校生の和太鼓団体が日本一を競う「全国高校生太鼓甲子園」のふたつ。加えて、地元や県外で精力的に活動している和太鼓団体による演奏の時間も設けられていて、一日中、和太鼓にどっぷりと浸ることができるイベントなのです。

2018年は会場変更により飲食の出店はありませんでしたが、石川県の和太鼓製造店「浅野太鼓」などの出店があり、和太鼓のバチや小物などが販売されました。
ゲストとして出演していた、陸上自衛隊滝ヶ原駐屯地の太鼓団体「滝ヶ原雲海太鼓」による気迫に満ちた演奏
今年からコラボレーションしている、長野県岡谷市「岡谷太鼓」の演奏。なかには、過去に「富士山一人打ちコンテスト」の優勝経験者も。

大太鼓富士山一人打ちコンテスト

この一人打ちコンテストは、富士山太鼓まつりの開催2回目から行われているプログラムです。1993年の第8回からは、地上高3,376mmという世界最大級の大太鼓「富士山」が登場してさらに注目を浴びるようになりました。

和太鼓の大会は国内でもいくつか開催されていますが、日本で初めて大太鼓の大会が開催されたのが、この富士山太鼓まつりなのです。歴史ある大会に出場し、大太鼓「富士山」を叩いて日本一になること。これは和太鼓奏者にとって非常に名誉なことで、毎年、全国から腕自慢の和太鼓奏者が集まってきます。

観客が息をのみ見守るなか、鬼気迫る面持ちで大太鼓を叩く和太鼓奏者たち。

本選前日の7月28日(土)、同会場にて行われた予選に参加したのは63名。それぞれが渾身の演奏を繰り広げ、審査を経て20名が本選出場の切符を手にしました。そして迎えた本選の日。出場者たちは、ドラの合図を皮切りに約3分間の演奏を繰り広げます。身長の倍以上はある大太鼓「富士山」に立ち向かって、腰を低く落とし、ときに腰を大きくのけ反らせて一打一打を打ち込む和太鼓奏者たち。その姿は、圧巻の一言に尽きます。

和太鼓奏者たちの演奏を何度も見るうちに、音の強弱やリズムだけでなく、叩く面を変えたり、バチを太鼓の面に押し当てるようにして音を鳴らしたりするなど、ひとつの和太鼓で表現できることが無限にあることに気づくでしょう。そして、和太鼓という日本の伝統文化にすっかり魅了されてしまうに違いありません。

演奏を終えた奏者たちは、大太鼓と観客に一礼して退場していました。その姿勢に、武道と通じる謙虚さを感じられます。

審査には「心」「技」「体」という3つの採点基準があり、「心」は礼儀・気迫、「技」は構成・テクニック、「体」は構え・音・振り・衣装のそれぞれについて点が加算されていきます。2018年の開催時も甲乙つけがたい素晴らしい演奏が行われていましたが、最終的に、茨城県の加藤慎二さんがみごと優勝を勝ち取りました。

優勝者には30万円の賞金があり、さらに2019年6月に行われる「岡谷太鼓まつり 世界太鼓打ち比べコンテスト」の本選への出場権も与えられます。この富士山太鼓まつりへの出場が、和太鼓奏者たちのさらなる飛躍に繋がっているのです。

2018年の優勝者である加藤慎二さん(茨城県)。本選に加えて、エキシビジョンでもその迫力の演奏を披露してくれました。
優勝を手にし「まずは、いつも支えてくれている妻に伝えたい」とコメントをしていた加藤慎二さん。演奏中の荒々しい表情から一転、笑顔がこぼれていました。

高校生太鼓甲子園

富士山太鼓まつりのもうひとつの目玉は、全国の高校生団体が集う「全国高校生太鼓甲子園」で、2010年の第22回から始まりました。2018年に参加していたのは全12校。静岡、東京、千葉、山梨、愛知、福井とさまざまな地域から、和太鼓に青春をかける高校生たちが御殿場に集まり、独創的で情熱的な演技を披露してくれました。

息を揃えて力強い和太鼓演奏を行っていた、出場4回目の東京都美原高等学校。

テーマは自由で、演技の制限時間は8分間。審査対象となるのは和太鼓の演奏のみですが、篠笛や三味線、鳴り物を使って伴奏を加えていた団体も。高校生日本一を競い合う場としての役割を越えて、和太鼓演奏という素晴らしいパフォーマンスを繰り広げる場となっています。

最優秀賞を獲得した団体には、一人打ちコンテスト同様、2019年6月に開催予定の「岡谷太鼓まつり世界打ち比べコンテスト本選(団体の部)」に、予選会免除で出場できる権利が与えられます。2018年に最優秀賞を獲得したのは、出場3回目の福井県立勝山高等学校。諏訪湖湖畔の祭りで、ふたたびその素晴らしい演技が行われることに期待が高まります。

篠笛、三味線、歌による伴奏と踊りによって、観客を楽しませてくれた優勝校・福井県立勝山高等学校。
入賞校が発表されるたびに、ステージ上で嬉し涙や悔し涙を流していた高校生の和太鼓奏者たち。この大会へかける強い思いに、見ているほうも胸が熱くなります。

富士山太鼓まつりと「富岳太鼓」

「日々恵みを受けている富士山に、感謝を捧げる祭りを作りたい」
富士山太鼓まつりは、そんな思いを強く抱いていた社会福祉法人富岳会の山内強嗣さんの発案によって生まれました。

富岳会では、知的障がい者のためセラピーとして1977年から療育プログラムに和太鼓を取り入れています。それから「富岳太鼓」を立ち上げて活動を続けるなかで、知的障がい者だけでなく地元の子どもから大人までが参加する、約120名もの和太鼓団体へと拡大していきました。

富岳太鼓代表・山内強嗣さん。富岳太鼓には知的障がい者で構成する「竜神組」、インストラクター中心で構成する「雷神組」、オーディションで選ばれた4歳から高校生までの未成年で構成する「風神組」という3グループがあり、精力的に演奏活動を行っている。

富岳太鼓の代表をつとめる山内さんは「富士山に感謝を伝えるために、和太鼓の演奏を奉納する」というアイディアを市や地元企業などにもちかけ、その結果、1986年に富士山御殿場口新五合目を会場とする和太鼓の祭典「富士山感謝祭」を、無事に開催させることに成功しました。これが、「富士山太鼓まつり」のはじまりなのです。

じつは当時、富士山山頂に巨大わらじを奉納する「御殿場わらじ祭り」が年々規模を縮小していて、御殿場から全国に発信できる大きなお祭りがありませんでした。そのような事情も開催を後押しした背景にはありましたが、ひとりの和太鼓奏者の情熱が、御殿場の新しい歴史を生み出したことに変わりありません。

第23回までは、富士山御殿場口新五合目で開催。火山灰で作った特設ステージで、夜通し和太鼓の演奏やゲストのパフォーマンスが行われていたそう。

いまや「富士山太鼓まつり」のシンボルとなっている大太鼓・富士山の製作に尽力したのもこの山内さんです。1993年、石川県の老舗和太鼓メーカー「浅野太鼓」の職人技術によって、地上高3,376mm、重量2.5t(いずれも台座を含む)、直径2m10cmという世界最大級の大太鼓「富士山」が完成。普段は富岳会の施設内に保管され、富士山太鼓まつりをはじめとする和太鼓イベントや公演のたびに、その轟音を轟かせています。

富岳会に保管されている大太鼓・富士山。一打叩くだけで、空気を切り裂くような強烈な音が鳴り響く。

2019年も、7月末の週末(7/28,7/29)に御殿場での開催が予定されている「富士山太鼓まつり」。「日本三大太鼓まつり」として、千葉県成田市、長野県岡谷市とのコラボレーションも行われますます盛り上がりを見せるこのお祭りに、ぜひ足をお運びください。

写真◎飯田昴寛
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